TOPテキスト系


『暁月夜』


















夜が明けること、

それを暁という。





暁月夜






「どうしたバッツ?」


夜も更けた森の中で、焚き火が燃えていた。
隣にはすやすやと寝息を立てるチョコボ。
炎の向こうには、柔らかく微笑む父が居た。

「あ…いや…なんだか眠れなくて…」
「ほぅ、珍しいな、寝付きのいいお前が。」
「うん…」

掛けてあった毛布をどかす。
炎の向こうの父は、まだ微笑んでいた。
父は、こんな笑い方をするような人だったろうか?

「…。」
「…何か、気になることでもあるのか?」

所在なげに言葉を探していたら、それを悟られたのか、父の方から切り出された。

「うん…誰かに、呼ばれてる気がするんだ…」
「ほほぅ、こんな夜中に誰も呼びやしないさ。さぁ、早く眠ってしまいなさい。明日の朝も早いんだから。」

父は焚き火に土をかけて、また笑った。

「う…ん……」






――― バッツ!!






「っ?!」
「どうした?」
「いや、また声が…」

辺りを見回すもそこは当然深夜の森、風の音がただざわめくだけ。

「気のせいだろう、さっさと寝なさい。」

優しく笑う父。

「…なんだこの違和感は…」

心の奥に引っかかったような感じ。
足元がおぼつかないような浮遊感。
この焦燥はどこから来る?

「バッツ?」
「いや、なんでも……」






――― バッツ!!







誰だ誰だ誰だ
何故オレを呼ぶ?オレは此処に居る。
オレを呼ぶのは誰だ!


「どうしたバッツ。」

目の前の父はまた微笑む。
父の笑った顔を見たのは、どれぐらいぶりなんだろう…。

「バッツ。」
「?」
「目の前だけに惑わされるな。己を信じ、その目で、心で、物事をとらえるんだ。」
「…親父?」
「自分自身を信じろ、バッツ。」

父はにっこりと笑った。
同時に、強烈な光が背後から迫るのが判った。

「ほら、夜が明けるぞ。行け、バッツ。みんなが待っとるぞ。」
「え、親父?!」
「ワシの孫娘も、頼んだぞ。」

シワだらけの顔で微笑むのは、父ではなく、かつての旅の仲間。

「っ?!ガラ――…!!」


オレの声は光にかき消され、身体は光に溶けた。










「バッツ!!」
「あ…ファリス?」

再び開けた目に映ったのは、嬉しそうに覗き込んでくる仲間達と、何処かの宿屋の天井だった。

「オレ……」
「よかったぁ、目が覚めたのね。」
「モンスターの毒を受けて、倒れちゃったんだよ?覚えてる?」

ほっとした顔のレナと、まだ不安そうなククルが右側で会話している。

「そっかぁ、呼んでたのは、お前達だったのか―――」
「クェーーッ!」
「うん、ボコもな。」

傍に居たボコを撫でてやる。

「まぁったく、心配かけさせやがって。だらしねぇなぁ。」
「そんなこと云ってー、ファリスが一番心配してたじゃなーい。」
「バッ…な、何云うんだよっ!!」
「ふふふっ」

よほど気を張りつめていたのだろうか、バッツの周りではしゃぐファリスとレナとククル。
そんな仲間を見ていたら、自然とバッツの顔も緩んだ。

「さぁ、また明日から始まるぜ、エクスデスを倒す旅が。明日は早い、今日はもう寝てろ、バッツ。」
「うん、おやすみバッツ。」
「おやすみなさい、バッツ。」


「また明日。」


扉が閉じられ、部屋にはバッツだけとなった。

「明日、か。」

ひとりごちて、バッツは再び瞳を閉じた。


やがて来るであろう、夜明けのために。








FIN.



written by 卯月 琉さん





back